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「推し活」は「神聖なごっこ遊び」なのではないか…! アニメ版『推しの子』、中田考『どうせ死ぬこの世は遊び人はみな』、ヨハン・ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』を並べて思いついたこと

 先週からテレビアニメ『推しの子』の2期が放送されています。私は『推しの子』のにわかファンですが、何となく『推しの子』の波に乗っていたいので、タイトルの内容をつらつらと書いてみたいと思います。

 

 そもそも私が『推しの子』のアニメを見始めたきっかけは、1期op曲「アイドル」の次の歌詞に惹かれたからです。

 

 誰かに愛されたことも 誰かのこと愛したこともない そんな私の嘘がいつか本当になること(信じてる)

 

 ポスト・トゥルースと言われる今日、「嘘が本当になることを信じている」という歌詞は私にとっては衝撃的でした。というのも、この歌詞が単なる商業主義を越えたアイドル像を示唆していると思われたからです。

 

 私は、巷に溢れるアイドルとは「本人や芸能事務所が偶像[idol]を提供し、その偶像や行為に金銭を支払ってもらう商売」だと思っています。ここでは、アイドルの行為(面白くもないのに笑顔を振りまいたり、世間の目を考慮しながらSNSしたり、ファンと握手したり、チェキを一緒に撮ったり等々…詳しくは知りませんが)はある種の「嘘」です。そしてファンの方も、アイドル(作られた偶像)に対して過剰な消費(自分のためのグッズや聖地巡礼など自身の趣味の範囲を超えて投票権目当てで大量のCDを買ったり、自分が扱える範囲を越えた金銭を使ってしまったり、ストレス発散のための消費自体が目的になっていたり、承認欲求の捌け口になっていたり…)をすることがあります。ここにはある種の「騙す―騙される」関係があると思われます。

 

他方、「嘘が本当になることを信じている」アイドルとファンの関係は、商業主義的な関係よりも高次の次元にあると思われます。それはどのような関係でしょうか。ライトノベル作家の中田考先生は、著書『どうせ死ぬ この世は遊び 人は皆』の「STEP3 推しを持とう」で次のように述べています。

 

 「“推し活”? バカなの?」と思うかもしれません。そう思うのも無理もない気もしますが、他人に尽くす博愛、慈善、献身の心を学ぶ修行だと考えると、なんだか有難く感じてきませんか。じつは「アイドル」という言葉はもともと「偶像」という意味です。また“推し”のもともとの意味は推薦で、他人にすすめることですが、“推し活”では「布教」と呼ばれます。“推し活”とは実は宗教的行為、修行なのです。(92頁)

 

 原初的な推し活は自分の欲求を満足させるために、グッズを買ったり、ライブに行ったりする、自身の欲求を満足させる行為だと思われます。「自分のための行為」は真の推し活ではありません。中田先生は同書で次のように述べています。

 

 たまに“推し”にこれだけつぎ込んだんだから特別扱いしてほしいという人がいますが、これは救えないバカです。見返りを求めた時点  でそれは“推し活”とは呼べません。(96,97頁)

 

 おそらく、推し活はその行為が深化することでより高次の次元に昇華する活動なのだと思われます。原初的な推し活の次の段階は、自身の推しを「応援」する段階となるはずです。この段階になると、それは自分を満足させるための「手段」ではなく「推しのための行為」、すなわち「目的」となります。この「推しのための行為」を追究することで、推し活は真の推し活に昇華されるのだと思われます。 

 

 そして、真の推し活が、「博愛、慈善、献身」を本質とするのであれば、それは「自分のため」の行為ではありません。おそらく、「私」と「推し」の区別がないような、仏教の無やキリスト教神秘主義の合一に近いものなのかもしれません。

 

 さて、ここまで推し活について思いついたことをつらつらと書いてきました。推し活とは、自身を満足させるための趣味の段階から深化することで神聖な宗教的行為になるのではないかというお話でした。

 

 ところで、この文章を読むと、「推し活のような遊びと神聖な宗教的行為を同一視するのは如何なものか」という疑問や批判を抱く方も居られるかと思います。確かに熱心な宗教家の方々に言わせると、「遊びで信仰してるのではない!」とお叱りの言葉が飛んでくるかもしれません。そのような批判に対しては謝ります。すみません。少しポップに書きすぎたかもしれません。

 

 しかし、逆に「遊び」の意味や価値をもう少し深めて考察することも、日々の仕事に忙殺されて「遊び」を忘れてしまった現代人、特に大人である私たちには重要だと思われます(いや、現代は子どもも忙しいですね)。そこで、次回はヨハン・ホイジンガ著『ホモ・ルーデンス』で述べられている人間における遊びの視点を入れながら、「推し活」をもう少し深めていきたいと思います。